雛祭り。


長く伸びていく、飛行機雲。

3月3日、桃の節句、雛祭り。
女の子の健やかな成長と、幸せを願い
一年に一度、飾ります。

本来は流し雛として簡易な人形で、
雛祭りが終わると川に流して、病魔を退散させ、
厄を祓うものでした。
地域により、風習は違いますが
大抵は、嫁の実家からお祝いに贈るもの。
もしくは、両親から娘へと、
雛人形が親の代わりとなり、
いつまでも娘を守るように願い、贈るもの。

さて、今年の雛祭り。
娘二人の雛人形を出して飾り、
私の雛人形を出して飾ろうとしたら…
ぽろり、と男雛の頭が転がり落ちました。

え?え?ちょっと待ってちょっと待って。
確かに、しばらく前から首がグラグラしてきていて、
もう60年以上前の人形だから
経年劣化があるのは当然ではあるのですが、
気をつけて出したりしまったり、していたのですが…

この男雛の連れ合いの女雛は、
もう20年くらい前から、歯が生え出していたのでした。
正確には、歯ではなくて
唇の塗料が剥げて、地が出てそのように見えてしまうのだと思うのですが、
女雛の小さな口は少し開いていてピンクの舌が見え、
その前に小さな、米粒の1/5くらいの白い歯のようなものが見え、
真っ赤な唇に映えて、かなり色気がある女雛になってしまい、
その色香は年々、強くなるように感じていました。

色気漂う、歯が生えた女雛と、
今にも首が折れそうな男雛、二人並んで澄まし顔、
というより何やら妙に迫力がある。生身っぽい。

その、男雛の頭がころり、と音もなく落ちて。
そうか、お疲れ様でした。
女雛を抑えていた男雛は、力尽きてしまったのね。
それだけ、女雛の力が強くなったわけですね。
いよいよ、人形供養の時期が来たのですね。
長い間、ありがとうございました。

私は落ちた男雛の首を、男雛の膝に抱かせて
薄紙で包み直し、
女雛を包む薄紙は取らずにそのままに、
女雛の顔を、うすく開けた歯が生えた口を見ずに、
お酒をあげてお菓子を持たせて、
すぐに人形供養に送り出したのでした。

灯りをつけましょぼんぼりに…

ありがとう、お雛様、今までありがとう。
私は、これで親の庇護から、本当に巣立った気がしますよ。
さようなら、私のお雛様。